今回は『やかん』のことを。
『やかん』は噺家になって最も高座に掛けたネタです。
前座の頃に柳家三三兄さんに教えて頂きました。
『やかん』は後半、講釈の件があり、それがまた聴き所でもあります。
宝井琴柳先生から『三方ヶ原軍記』を直々に教わっている三三兄さんの講釈は、言わば本物。
アタシも何とかしなくては、と三三兄さんに相談をし、琴柳先生から『三方ヶ原軍記』を教えて頂きました。
琴柳先生は保守本流。特に修羅場を読ませたら右に出る者はいないという、凄い方なんです。
先生は1回3時間のお稽古を、月に2度くらい、それを3年ほど付けて下さいました。それだけの時間と労力を講釈師でもないアタシの為に…。
講談のお稽古はまず本を作る所から始まりました。
石州半紙という紙と、たこ糸を用意して(三三兄さんが買って下さいました)、本の作り方を(三三兄さんに)教わって、本を(三三兄さんに)お借りして、それを写して(さすがに自分で)、改めて先生にお稽古をお願いしました。
最初は先生の後について「大きな声で抑揚をつけずにはっきりと読む」ことを何度も繰り返しました。
それから修羅場の読み方を教えて頂きました。
当時、驚いたのは、鉄砲伝来前とそれ以後では読み方が違うということ。目の前で、その違いを実演してくださいました。
一般的に皆さんがイメージする修羅場は、鉄砲伝来後の「派手」な読み方だと思います。それ以前の、例えば源平合戦では、同じ合戦でも「優雅」に読むのだそうです。
「変な節をつけて激しく読むのが修羅場ではない。」そう仰っていた先生。
ちなみに、この「優雅」な読みを、アタシはいまだかつて琴柳先生でしか聞いたことがありません。それくらい難しい技術なのだと推察します。
アタシは『源平盛衰記』でも講釈をやるのですが…伝来後の読み方をするのが精一杯です。先生のように「優雅」に読んでお客様に喜んで頂くのは…ムズカシイ。
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