[噺のネタ]22『代書屋』(権太楼師匠の十八番~サゲまで演らない理由は…)

 

アタシは権太楼師匠に教えて頂きました。

『代書屋』は、実際に代書屋をされていたという先代米團治師匠の拵えた新作落語。

東京では芸術協会の先代小南師匠の型を、喜多八師匠が習って落語協会へ。

そこから雲助師匠や権太楼師匠に広がっていったネタです。

アタシがお稽古をつけて頂いたのは国立演芸場。
ちょうど喜多八師も出番でいらしてました。

権太楼師が喜多八師に「この子に『代書屋』を教えるから」と、わざわざ許可を取って下さり、そのまま地下の稽古場へ。

『代書屋』は権太楼師の十八番中の十八番。

お客様の頭の中に権太楼師の型がしっかりありますので、後輩が教わった所でとてもとても…というネタ。

ですから、喜多八師か雲助師に教わる人が多かった様に思います。

 

それでもアタシは権太楼師の「間」と「呼吸」、「押し引き」の技術を学びたく、それが『代書屋』には沢山詰まっている様に思い、敢えて教えを請いました。

権太楼師からは「代書屋さんが怒っちゃダメだよ。例え文言として怒っていても、肚からそうしてはいけない。この噺がつまらなくなっちゃう」と教えて頂きました。

「代書屋さんも客商売だからね」と。

そしてそのお稽古では、権太楼師はサゲまでされなかったんです。

最後の賞罰の件で「冗談言っちゃいけねぇ」で終わってしまいました。

権太楼師の手持ちの映像をいくつか確認しましたが、一番長いTBS落語研究会でも同じ所まで。

あとはもうサゲをただ言えば良いだけの所ですので、「何故だろう?」と考えました。
(その場で質問すれば良かったのですが恐れ多くて…)

結果、サゲの、「嘘だと思うなら、その履歴書をご覧よ」という台詞が、客の男のキャラクターに合わないから、というお考えではないか、という考えに至りました。

というのも、試しにやってみた所、何だか腑に落ちない…と言いますか、唐突な感じがすると言いますか…。
オチとしては綺麗に出来てはいるんですが。

この男はそんなこと言わない、というお考えではないか、とあくまでアタシ個人は思うのであります。

 

そんな『代書屋』、と申しますか、権太楼師の息と間を、実際に高座で試しながら研究出来たお陰で、二つ目の終わり頃には少しだけウケ方のコツような物が見えて来た様に思います。本当に少しですが。

ただアタシにとって『代書屋』は、あくまでも権太楼師の技術を勉強させていただくために習った噺ですので、持ちネタにするつもりはなく、もう5年位掛けていませんでした。

それでも最近、<自分の喋り>のような物が、遅まきながらつかめてきたので、ふと「今の自分の息と間でやってみたらどうなるだろう?」 と、試しに稽古してみたんです。

すると何だか新鮮で、楽しかったんです。

 

権太楼師の型を継承しつつ、より自由に動かせそうな手応えがありました。(注)

 

権太楼師の『代書屋』をよくご存知の方にも楽しんで頂ける、そんな持ちネタになるよう、試行錯誤していけたらと思います。

 

(注)
白酒師匠の著書『白酒ひとり壷中の天』(白夜書房)によると、二つ目時代に代書屋の男の年齢を自分に近づけて若くした所、よくウケる様になったそうです。

また馬治兄さんは客の男を田舎者に設定されています。原作では外国人も登場しますから、もっと人物の設定を色々変えてみても良い噺なのかもしれません。

なんとなく『代書屋』の客の男は上方落語的なキャラクターで、こちらの落語の人物らしくない所がある様に感じます…。

 

(2023.2.17 20:52 HPに投稿)

 

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