今回は代表的な前座噺の『道具屋』です。(注1)
前座噺というと簡単なネタ、と思われるかもしれませんが、そうではありません。
噺家として必要なスキルを身につける為のネタなので、噺の難易度で易しいネタを前座噺にしている訳ではないのです。どちらかというと難しい物が多いです。(注2)
とくに柳家で最初に習う『道灌』は最難関。
三代目金馬師型はともかく柳家型の『道灌』をモノにしている方は…
この『道具屋』も難しい噺。
以前は圓蔵師匠と扇橋師匠が頻繁に描けていらっしゃいましたが、お二人が亡くなってからは、寄席で中々聴けないネタになってしまいました。
今ですと三三兄、それから師匠・市馬に扇治師匠、扇辰師匠辺りがたまに、というくらいでしょうか。全員研精会OBですね。
アタシは前座時分に三三兄さんに教えて頂きましたが、ウケたことは一度もありません(泣)
でも好きなんですかね、捨てきれずに引っ張り出しては痛い目を見る、を繰り返しています。
そして今また引っ張り出そうと稽古しています。
と言うのは、先日、後輩に『大工調べ』の上げの稽古をつけている時に気がついたのです。「あ、道具屋はこのスキルを身に付ける為の前座噺だったのか」と。
他人に稽古をつけるのは自分の稽古にもなる、と言うけれど本当なんだなぁ。
また、同じ噺であっても、うちの師匠の場合は12、3分の寄席サイズなのですが、三三兄のは35分強もあり細部も盛り沢山。
伝書鳩、歳の市、葉唐辛子、天麩羅の屋台、毛抜き、元帳の件(くだり)、と言って何のことかわかる人は落語マニアです。
そういう事もあり、師匠も「『道具屋』は三三に習え」と稽古に出してくれました。
毛抜きの件は特に難しく、アタシには(ウケるウケない以前に)出来ません。
三三兄は以前、楽屋で毛を抜く稽古をずっとやりすぎて、一時期エア毛抜きが癖になっていたくらいです。
アタシは天麩羅の件が好きです。
いつかは『道具屋』を持ちネタにしたいなぁ。
(注1)先代の文治師匠は『道具屋』でなく『道具や』と書くのが正しいと仰っていたそうです。何故なら屋根のない場所で商売をしているから、屋の字を使うのはおかしい、と。
先代文治師匠は、江戸しぐさの人から色々吹き込まれて(笑)喋っていることも多々あるそうなので、一見もっともらしい事でも鵜呑みにせず、確認してみても良いかもしれません。
これは他の噺でも言えることですが、誰の言葉でもそのまま鵜呑みにはしないで、一度調べたり考えたりはした方が良いのかなぁと思います。
(注2)うちの師匠は「いいか、噺に簡単なネタなんかないんだ」とよく言いますが、それにしてもです。
簡単、という言葉が悪ければ「ウケやすい」と言い換えても良いかもしれません。
ウケやすい前座噺というと『子ほめ』『牛ほめ』『真田小僧』辺りでしょうか。
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