戦後すぐ。
寄席は沢山あるけれど、ホール落語が今ほど無かった時代。
昭和の名人と言われた桂文楽を筆頭に、人気のある噺家はお座敷に呼ばれて落語を申し上げていたそうです。
そして格の高いお座敷に呼ばれる事は、噺家にとってステイタスでした。
「君、そんなことでは、お座敷に連れて行けませんよ」
そんな小言があったほど。
彦六師匠が鰻「神田川」のお座敷に呼ばれた際のエピソードが、正雀師匠の著書にありました。
正雀師匠がしゃかりきになって前座をつとめたら、
「慣れている話をやりなさい」
そう言われたそうです。
お客様は後からお酒を召し上がるので、前菜のつもりでやりなさい、自分がメインのつもりでやるのではない、わきまえなさい、という事。
ある程度集客があり、お客様との距離のある寄席では、笑ったり大声を出したり、雰囲気や流れを作り出すことができるため、全体を巻き込んだ高座にすることができます。
しかし、お座敷での落語は、お客様との距離も近いので、大きな会場では目立たない芸の未熟さも、誤魔化しが効きません。
また、少人数のため流れが作りにくく、会場の雰囲気に頼る事ができないので反応がストレート。
まさに、真価が問われる高座。
「素」の芸での真剣勝負となります。
実は、真打に昇進してからの自主公演では、そんなお座敷での落語をイメージして、小さく会を開催して参りました。
自己研鑽の場として、毎回とても勉強になっています。
但し、小さな会はお客様との距離も近く、場合によってはトラブルに発展することもあり、リスクを伴うため真打数年目まで、と決めてもいます。今後は、徐々にですがお客様と距離の近い気軽な会は、減らしていく予定です。
先ずは、寄席の若手真打の出番に出た際、よい高座ができるよう、更に芸に磨きをかけ、精進して参ります。
余談:当然のことですが、お座敷での落語は、呼ぶ側にとってもステイタスだったんですね。
玉屋柳勢の基本方針はこちら
・