カンナン汝ヲタマニスに寄せて

カモが、1月8日の「カンナン汝ヲタマニス」に向けて書いてくれました。

—————————————————————————-

誰しも癖がある。

噺家にも癖がある。

例えばそれは、舞台袖から登場し座布団に座るまでの間に現れる。

客席を向く向かない、扇子の持ち方、笑顔真顔etc.

 

玉屋柳勢の癖を知っている。

両手を少しだけ左右に広げ、扇子を軽く縦向きに持ち、座るまで客席の方は見ない。

あの時間、どんなことを考えているのだろうか。

 

2020年3月、15年ぶりに鈴本演芸場を訪れた。

柳勢が真打昇進を果たした披露目の会、その客席に僕はいた。

前座から大看板まで、すべての演者がトリの新真打を祝うためだけに高座に上がる。

コロナの影響で公演が次々と中止になり始めた時期だった。緊急事態宣言はこの三週間後に出ることになる。

客席には初めての事態への戸惑いと、それでも新真打をお祝いしたいムードで、異様な空気が流れていた。

次々とベテランの噺家が高座に上がっていく。

日常を奪われ始めているのは舞台側も客席側も同じ。そのモヤモヤを笑いで浄化されていくような気分だった。

来て良かった、と僕はマスクの下で思った。

 

「愛され仕事」という言葉がある。

披露目の口上で、並んだ先輩の噺家たちが柳勢のエピソードを語り客席が笑う。

「ああ、これこそ愛され仕事だな」と思いながら、僕はその様子を眺めていた。

この時にはもう、コロナのことは忘れていた。

 

いよいよトリの柳勢が高座に上がる。

黒紋付を身に纏い、客席からも袖からもいっぱいの拍手を浴びながら、いつものように両手を少し左右に広げて座布団に向かう。

ハッとした。その姿が、羽を広げ飛び立つ鳥のように僕には見えたからだ。

真打とは、噺家として羽ばたくことと等しい。

演目は『粗忽の使者』。

周りからすると少し迷惑な、しかし愛されることで許されている人物が主人公の噺。この新真打にピッタリだ。

 

無事、幕が降りた。

立ち始める客席。みんなが日常に戻る支度をする。

幕の向こうでは、演者が集まり手締めをする音がしていた。笑い声も聞こえた。

近くにいた二人組のご婦人が「すごい愛されてる人なのねぇ」と話していた。

頷きながら、僕は15年前と変わらない鈴本演芸場を後にする。

出口で思わず、両手を少し左右に広げた。

 

2021年1月8日、柳勢兄さんと二人での公演。

良き日になりますように。

 

ナツノカモ


◎1/8(金)カンナン汝ヲタマニスのご予約はこちら

「ナツノカモとは。。」