[噺のネタ]15『芝居の喧嘩』(これぞ江戸弁。巻き舌とは。)

よく先輩方から

「芸人はお客様に愛されなくてはいけない」

と言われます。

当たり前のことの様ですが、これが中々難しい。

好かれたいと思えば思うほど、うっとしい奴だと嫌われて、じゃあ嫌われたっていいや、と思うと望み通りになるという(笑)

 

本当に難しいですね。

そこをお客様どころか、口うるさい楽屋内にも好かれ、尊敬されているのが一朝師匠。
前座から看板の師匠まで、一朝師匠にお稽古をお願いする方は後を絶ちません。

そんな一朝師匠の魅力の一つは、あの爽快で耳に心地よい江戸弁です。

東京生まれの上に、チャキチャキ江戸っ子の先代柳朝師匠に鍛えられ、長らくNHKのドラマで江戸言葉指導もされています。

「火事と喧嘩は江戸の華」ですが、東京落語の華は当然江戸言葉でしょう。

その江戸言葉を堪能できるのが、歌舞伎『極付 幡随院長兵衛』の一場面を元にした『芝居の喧嘩』です。

 

ただ、口調がいいとか、江戸弁が魅力だね、と言われる人の中には、すべての登場人物を巻き舌で喋ってしまう人がいます。

だいぶ前になりますが、某売れっ子の師匠が『明烏』の中で、時次郎を巻き舌でされているのを聴いたお客様が、何だかヤクザみたいな時次郎だなぁと仰っていた事がありました。

アタシのイメージでは
熊さんは八っつあんは巻き舌〇
大家さんは少しくらいの巻き舌ならあり
隠居さんは巻き舌×

なのかしらという塩梅。

もちろん噺にもよりますし、のべつに巻いているのは論外ですが。
(そう。程良く。何事も程が大事なのです。)

 

口調による登場人物の描き分けが眼目とされている落語で、売れっ子の師匠や有望と言われている人が、何故登場人物をみんな巻き舌にしてしまうのか?

それについて、ある時こんなことを指摘された方が。

巻き舌でトントン喋っていたら「君は口調がいいね」と褒められ、それを意識して巻いているうちに過剰な江戸言葉(ヤクザ口調)が癖になってしまったのではないか。

アタシもそれについて考えてみましたが…

褒められすぎて長所が短所になるという、皮肉なパターンでしょうか。褒められるというのも場合によっては恐いものですね。

一方で、さすが一朝師匠は登場人物によってしっかりと使い分けをされていて、そもそもが、ほとんど巻いてはいないのです。

『芝居の喧嘩』は町奴が次から次へと出てくるので、ガンガン巻いてしまっても良い様に思いますが、おそらくみんながイメージするよりずっと巻いていません。

 

それでも、一朝師匠の江戸っ子達は躍動しているんです!

 

また、江戸言葉の代表の志ん朝師匠も、敢えて江戸弁でなく標準語のアクセントを選んで発音されていた言葉もあったそうです。

本物の江戸っ子は過剰な江戸言葉は使わないんですね。

東京生まれでないアタシも「江戸っ子がり」にならない様に気をつけなくては、と思う次第です。

『芝居の喧嘩』はアタシの中では結構巻く方ですが。

 

(注その1)『芝居の喧嘩』は一朝師匠のイメージが強いと思いますが、元々は権太楼師匠のネタです。
権太楼師匠が講談の二代目神田山陽先生から習って、それを今の形にされました。一朝師匠はほぼ権太楼師匠の通りにされていますが、権太楼師匠は今は滅多に高座にかけないようです。
アタシは学生の頃、初めて『芝居の喧嘩』を聞いたのは権太楼師匠でしたが、噺家になってからは…聞いたかな?
ネタ帳でごくごくたまに見るかなぁ、という位です。

 

(注その2)また、このネタは結構挫折する人の多いネタでもあります。 挫折する人はみんな同じところが上手く出来なくてお蔵入りにしてしまうんですが…それはいずれ「ここだけの話」で。