[噺のネタ]14『がまの油』(言い立てより難しいのは…)

今回は『がまの油』です。ちょっと長いですがまずは口上の言い立て全文を。

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さぁ、御用とお急ぎでない方はゆっくりと見ておいで。

遠目山越笠の内、近寄らざれば物の文色(あいろ)と理方がわからん。

山寺の鐘轟々として鳴るといえども童子一人(いちにん)来たりて鐘に撞木を当てざれば、鐘が鳴るやら撞木が鳴るやらトンとその音色がわからんが道理だがお立合い。

手前取り出だした棗の中には一寸八分唐子ぜんまいの人形。
ニッポンに人形の細工人数多ありと言えど、京都ぅには守随、大阪表には武田縫之助、近江の大掾藤原の朝臣。
手前取り出だしたは近江がつもり細工。
喉(のんど)には八枚の歯車を仕掛け背中には十と二枚のコハゼを仕掛け、大道に棗を据え置く時には天と地の湿りを受けて、陰陽合体致したる時棗の蓋をパッと取る。
ツカツカ進むが虎の小走り虎走り雀の小間取り小間返し孔雀霊長の舞。

人形には十と二通りの芸当がある、だがお立合い。

投げ銭放り銭はお断りをしよう。

手前未熟なる渡世を大道で営むと言えど、投げ銭放り銭はもらわぬ。

しからば、何をもって生業と致すかと言うに、
手前年来商うは蟇蝉噪は四六のガマの油だ。

こんなガマはうちの縁の下や流しの中に下にもいると言った御仁があるが何それは俗に言うおたま蛙や蟇蛙、薬力と効能の足しにはならん。

手前取り出だしたは四六のガマだ。四六五六はどこでわかる。前足の指が四本(しほん)、後足の指が六本。これを唱えて四六のガマ。

このガマの住めるは、これよりはるーか北にあたる筑波山の麓にて車前(おんばこ)という露草を食らう。

取れまするが五月に八月に十月。これを唱えて五八十(ごはっそう)は四六のガマだ。

このガマの油を取る時には四方へ鏡を立てて下へ金網を敷く。
この中へガマを追い込めばガマは、鏡に映る己の醜い姿に「おのれ!」と驚き総身から、タラリ、タラリと脂汗を流す。
これを柳の小枝でトローリ、トロリと煎じ詰め上げたるがこの油。

赤いは辰砂(しんしゃ)椰子油の油、てれめんていなにまんていか。

金創には切り傷、効能は出痔、いぼ痔、はしり痔、横根雁瘡(よこねがんがさ)その他腫れ物一切に効く。

普段は一貝で百文であるが本日は出張っての披露目の為、小貝を添えて二貝(ふたかい)で百文だ!

さ、このガマの油の効能はそれだけかと言うに、まだある。切れ者の切れ味を止める。

さ、手前取り出だしたは鈍刀たりと言えど、先が切れて元が切れん等と言う、はしきなまくらではない。抜けば玉散る氷の刃!

お目の前にて白紙を一枚切ってご覧に入れる。
さ、一枚が二枚と切れる。二枚が四枚(よまい)。四枚が八枚。この八枚が十と六枚、三十と二枚、六十と四枚。

春は三月落花の形、比良の暮雪は雪降りの形。

さ、かほどに切れる業物でも、差裏、差表にガマの油をつける時には、ほら、白紙一枚容易に切れん。

面にて試して御覧に入れる。
さ、叩いて切れない、引いても切れん。

拭き取る時はどうか。鉄の一寸板をも真っ二つ。
さ、腕にて試して、ほら、ちょっと触ってこんなに切れる。

しかしこんな物は訳もないこと。
ガマの油を一つけすれば、痛みが去って血がピタッと止まった、何とお立合い。

 


とここまでが『がまの油』の口上です。長いですね。タイプしている私も草臥れました。

この『がまの油』を十八番にしたのは三代目の柳好師匠。陽気で明るくリズミカルな落語をされる方で、あの談志師匠に「あらゆる落語の中で一席選ぶなら柳好の『野ざらし』」とまで言わしめた『野ざらし』と客席からの注文が双璧をなしたのが、この『がまの油』。

と言っても四代目の柳好師匠にも間に合っていないので、アタシはCDでしか聞いたことはありませんが…。

師匠・市馬が寄席の出番でよく掛けるネタでもあります。長い長い言い立てがあって、刀を抜いたりする仕草もあって、後半は酔っぱらい。声が良く、剣道経験者で刀の扱いにも慣れ、酒の噺も出来る、そんな師匠にうってつけのネタです。弟子が言うのも何ですが(笑)

様々な要素が入っていて、若手の稽古にもなる良いネタだと思います。

ただこの前半の口上をビシッと決めるのも大変ですが、、若手にとって更に難しいのが後半の酔っぱらいの件。

うちの師匠からも稽古で「お前は口上は良いけど酔っぱらいがダメだな」と言われました。

当時酔っぱらいが出てくる噺を習うのは初めてなのだから、そりゃそうでしょ、と思いつつ「(具体的に酔っぱらいを)どうやればいいんでしょうか?」と聞いたら、師匠が後半の酔っぱらいの件を下げまで掛けてたった一言「な」

いや、な、って言われても…

とは思いましたが、うちの師匠の指導としてはこれはかなり親切な部類。(注)ですから自分で何とかするしかありません。

『棒鱈』『風呂敷』『蜘蛛駕籠』『締め込み』『らくだ』『ねずみ穴』『妾馬』『富久』あと何かあったかしら?とにかく酔っぱらいの出てくる噺を色んな師匠方に習い優しく教えて頂いたり(主に雲助師匠)、ボロクソに言われたり(主に〇〇〇師匠)しながら、少しずつそれらしくなった今日です。

(注)具体的にどんな指導なのかはアタシも立場があるので書きません。決して書きません!…でも喋ることはあると思います。お聞きなった方はSNS等に書かないよう秘密厳守でお願いいたします。いやホントに。