[噺のネタ]17『たらちね』(笑いを取るか、噺の世界を描くか)

アタシはこれを聞いたとき声が裏返りました。

‥‥

それについては、後ほど。

 

さて、前座噺でお馴染みの『たらちね』ですが、落語協会では2つの型が主流です。

1つは私自身もやっている柳家に多い型で、うちの師匠(市馬)から習いました。
そのほとんどは小里ん師から出ているそうです。
うちの師匠も小里ん師から。

言い立てが
「自らことの姓名は、父は元京都の産にして、姓は安藤、名前は慶三、字(あざな)をごこう。
母は千代女と申せしが、我が母三十三歳の折、ある夜丹頂の鶴を夢みてわらわを胎まるが故、
たらちねの体内をいでし時は皆は鶴女(つるじょ)鶴女と申せしが、それは幼名。
成長ののちこれを改め、清女(きよじょ)と申し侍るなり」

というもの。

もう1つは、三代目金馬師→南喬師→扇遊師と伝わってきた、三代目金馬型。

言い立てが
「そも我が父は大和の侍、四条上がる横町に住まいを構え、
苗字を佐藤、名を慶三、字をごこうと申せしが、
三十路に娶りし、我が妻のそは我が母のことにて侍り。
子なくして三年(みとせ)経ぬれば去らぬると、
思うものから天神に掛けし願いの届きてや、
短き春のたまくらに、梅枝を胸にささるると、ほどなくわらわを懐胎なし、
十月(とつき)を過ぎて十夜(とや)のこと、
たらちねの体内を出でし時よりすこやかに、
鶴女鶴女と申せしが、そは幼名にて、
成長ののち、これを改め千代女と申し侍るなり」

と、長い!

これは柳家の倍くらいありますね。

 

でも序盤からウケやすいくすぐりが多く(補足)、柳家でもこちらの型をやる人もちらほら。それだけ魅力的な型で、アタシ自身も以前はこちらの型で教わりたかったなぁ、と思っていました。

 

でも稽古し直してみた所、思い直したのです。

寄席の10分~15分の出番でウケやすいのは圧倒的に金馬型ですが、柳家の型もじっくりやると、情景が無理なく出ていて素晴らしいのです。

笑いを取るより情景を描いた方が素晴らしい、とまでは言いませんが、(笑いを取るのは大事ですから。私たちは落語家、芸人ですもの)そうではないやり方もあるんだ。

ただそういう風に持っていくには、寄席の持ち時間では足りませんね。20分?もう少し欲しいかな。
といった塩梅ですが、いつかは15分で情景と人情、2つの情が自然に出せるようになりたいですね。

 

お終いに、今まで散々柳家の型と言ってきましたが…

 

実はこれ、本当は柳家じゃないんです。

 

というのはネタ元の小里ん師は小三治師に習っていますが、小三治師が教わったのは圓生師匠なんです。

そう、これ柳家じゃなくて三遊亭の型なんです!

 

アタシはこれを聞いたとき声が裏返りました。

 

(補足)
「八つぁん、お前妻(さい)を持つ気はないかい?」
「サイですか…そりゃ飼ってみたら面白いかもしれねぇけど、何餌やっていいかわからねぇし」
とか
「あっしン所へ嫁に来ようなんて女はいますかね?」
「そりゃいるよ。いや、うちのばぁさんがな、お前のことになると夢中でな。どうやらお前のことが好きらしい」
「この話はなかったことにして下さい」
とか。

さすが三代目はラジオで全国的にバカ売れしただけあって、序盤からウケの良いくすぐりが多く入ります。