人間国宝、五街道雲助師匠のお稽古では。

 

はじめに…『粟餅』は「う〇こ」のネタで、『にせ金』は「キン〇マ」を連呼する噺…です。

 

「雲助師匠が人間国宝に」

 

そのニュースを聞いたアタシは飛び上がって喜びました。

雲助師はうちの協会でお稽古をつけてもらったことが無い人なんているかしら、というくらい皆がお世話になっている師匠です。(注1)

師匠はその芝居中にお稽古を付けて下さることもあり、寄席の初日には雲助師匠にお稽古をお願いする二ツ目が大体何人かいて、先輩「お稽古頼みに来たの?誰?」アタシ「雲助師匠に。上げのお稽古です」先輩「え、俺もだよ。じゃあ一緒に頼もうか」なんてことは日常茶飯事。

 

最初に習ったのは、アタシが二ツ目成りたての頃でした。

勉強で伺った見番の会で、珍品の『粟餅』をお掛けになった師匠。高座をおりていらして私に「『粟餅』で良ければ、いつでも教えてあげる」と。

喜んだアタシは師匠・市馬に「雲助師匠に稽古つけてあげるって言われました。行っても宜しいでしょうか」「おお、いけいけ。どんどん頼め」

許可を得たアタシは、日を改めてお稽古のお願いに。「師匠!お稽古のお願いに参りました」「うん、ネタは?」「『粟餅』を」「え!いや、あれはシャレだよシャレ。あれ覚えてもやる場所ないよ。 でもまぁ教えてあげるよ。『にせ金』も一緒にどう?」「『にせ金』はちょっと…『粟餅』のみでお願いします」

 

それから師匠の見番の会には可能な限り勉強に伺い、お稽古も20席程、と一門でもないのに、沢山つけて頂きました。あまり習い過ぎて、うちの師匠に「お前は雲助兄さんばっかり(稽古に行って、俺には来ない)」とすねられたくらい。

自分で「どんどん頼め」って言ったのに(苦笑)

 

通常、アゲのお稽古では、師匠が言葉や仕草、台詞の心情面等で間違っている所を指摘してくださいます。

しかし雲助師匠はそれだけではありません。

お稽古を付けている相手に、こいつならここまで言えば、あとは自分で気が付くだろう、と誘導するように伝えてくださいます。

自分の頭で考え、自分の足で歩けるようにお稽古を付けてくださるのです。「教える」というより「導く」とでも申しましょうか。それもさりげなく。

白黒だった自分の落語に、師匠が色をつけて下さる、そんなお稽古に、帰り道嬉しくなりスキップして帰ったことも1度や2度ではありません。おかげでうちには回覧板が廻って来なくなりました。

 

雲助師匠、本当におめでとうございます!

 

(注1)うちの協会(落語協会)では『明烏』『お見立て』『夢金』『芝浜』『子は鎹』『厩火事』『もう半分』『豊志賀』『中村仲蔵』『幾代餅』『代書屋』『お菊の皿』『ざるや』『持参金』等々師匠がネタ元になっている噺が沢山あります。

【余談】家が大好きな雲助師。出番が終わればすぐに帰宅されます。7下は浅草演芸ホールへご出演。間もなく隅田川の花火大会ですが、家が目の前なのに交通規制で中々帰れないそうで。

 

(2023.7.27 10:00 HPに掲載)

 

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