[噺のネタ]番外編(お稽古をお願いされるということ)

 

「後輩からお稽古を頼まれるということは名誉なことなんだよ。そのネタはあなたが1番です、とプロに認められたんだから」

 

以前、ある師匠がそう仰っていたことがありました。

「例え前座だってプロなんだから」と。

 

そう言えば亡くなった喜多八師匠にお稽古をお願いした時の第一声は「ありがとう!」でした。

噺家にとって、後輩にお稽古をお願いされるのは嬉しいことなのです。

頼まれてもいないのに自分から「おい、稽古つけてやるよ」と言って廻っている人もいるくらい…(迷惑なので良い子のみんなは真似をしない様に)

 

ところが、アタシは先日、ある前座さんにお稽古を頼まれましたが、お断りしました。

それはその前座さんが嫌いだとか、「自分の工夫は自分だけの物、誰にも渡さないんだから!」と思っている訳ではありません。

やる気と誠意がある人なら、自分の工夫した噺で良ければ、とも思いますし、アタシは彼に好感を持っています。落語も人柄も。

では何故か?と言いますと、頼まれたネタがまだまだ自分の噺、とは言い難い物だから、なのです。

アタシ自身も教えて頂いてまだ1年ちょっと、それも初演から数回掛けて蔵に入れたのを夏に出したばかりのネタ。

おそらく他の方と違うハコビやくすぐりがあって、それが彼には魅力的に見えたのかなぁ、と思います。

しかし、それはアタシが考えた物ではありません。

くすぐりでない所で色々工夫はしてはいるつもりですが、大部分は教えて下さった師匠が苦心に苦心を重ねて拵えた物。

それを自分のネタだという顔をして後輩にお稽古をつけることは出来ません。

彼には(断った)理由とアタシが習った師匠のお名前を伝えました。

きっと、その師匠に習いに行くと思います。

そうすれば、彼は同じ師匠から同じ噺を習って磨いていくライバルになります。

負けないぞ!

アタシも「認めてくれてありがとう!」と、心から言える自分のネタを作っていかなくてはいけないなぁ、と思いながら、まだまだ先輩方に教えを請うている日々です。

 

(2023.11.29 13:18 HPに投稿)

 

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